今回取り上げるのは、肩周囲の症状でよく使われる経穴のひとつ、巨骨(ここつ)。
先日、肩が凝っている人の巨骨を指圧していると、
肩がじわっと緩んでいく感覚をはっきりと感じました。
この記事では、
巨骨という経穴を起点に、筋の起始停止部・ゴルジ腱器官といった生理学的視点も交えながら、
「なぜ肩がゆるむのか」を考察していきます。
巨骨とはどんな経穴か
巨骨は、手の陽明大腸経に属する経穴で、
鎖骨の肩峰端と肩甲棘の間のくぼみに取穴されます。
肩関節周囲の痛みや可動域制限、いわゆる肩こりなどに対して
古くから用いられてきた経穴のひとつです。
位置的にも、首・肩・上肢の動きと深く関係していることがうかがえます。
腸活動への反応点でもあるので、内科に関してはまたの機会に考察したいと思います。

「巨骨」という名前の由来
「巨骨」という名称は、
「巨=大きい」「骨=骨」を意味するとされています。
解剖学的に見ると、この経穴は鎖骨という大きな骨の外側端付近に位置しており、
名称と身体構造が一致している点が興味深いところです。
東洋医学における経穴名は、
身体の形状や触診所見をもとに名付けられているものも多く、
この点からも、身体観察に基づいた知恵であることがうかがえます。
(時々、なぜそこがその名前?と思うこともあるので、またの機会にご紹介・・・)
試してみたこと
ここからは、肩が凝っている人の身体で試してみた内容です。
この方は右の肩上部が特に凝っており、張っていました。
コリの要因は、右利きであり、日常生活の癖による慢性痛と思われます。
そこで、
- 片手で右側の巨骨を3秒程度の持続圧を何度か繰り返しながら
- もう一方の手で、首から肩にかけての僧帽筋を軽く揉捏してみました
すると、
僧帽筋の張りがじわっと緩んでいく感覚がありました。
強い刺激を加えたわけではなく、
あくまで「痛気持ちいい」程度の刺激です。
なぜ僧帽筋がゆるんだのか(考察)
巨骨の位置を解剖学的に確認すると、
この経穴は僧帽筋の停止部付近にあたることが分かります。
僧帽筋の起始部
- 後頭骨(外後頭隆起・上項線)
- 項靱帯
- 第7頸椎(C7)〜第12胸椎(T12)の棘突起
僧帽筋の停止部・・・肩帯を構成する骨に集約される。
- 鎖骨外側 1/3
- 肩峰
- 肩甲棘

筋肉の起始・停止部、特に筋腱移行部(骨の際など)には、
ゴルジ腱器官と呼ばれる感覚受容器が多く存在しています。
ゴルジ腱器官は、
腱筋にかかる張力を感知するセンサーで、過剰な緊張が生じた際には
筋をゆるめる方向に作用するとされています。
これは、Ib抑制(わんびーよくせい)という働きで、生理学的には、
- 腱筋に圧刺激による一時的な強い筋収縮が起きる
- ゴルジ腱器官が腱筋にかかる張力を感知し「腱が切れる!」と判断
- この情報をIb繊維を介して脊髄後角に伝える
- 脊髄内の介在ニューロンを介してα運動ニューロンに「緩め!」と指令を出す
- α運動ニューロンの活動が抑制され、腱が断裂するのを防ぐ
というドラマが起きていたのですね。

今回のように、
起始停止部付近に穏やかな圧刺激が加わることで、
張力が高まったと認識され、
反射的に筋緊張が調整された可能性は考えられます。
東洋医学と生理学は相互作用しあう!
本件はあくまで一つの仮説であり、
単一のメカニズムで説明できるものではないかもしれませんが、
「巨骨を刺激すると肩が楽になる」という経験的事実を、
生理学的な視点から考察できる余地は十分にあると感じました。
経穴というと、
「東洋医学的」「感覚的」「非科学的」と捉えられることもあります。
しかし実際には、
経穴は身体に起こる反応を捉えた“観察点”であり、
それをどう説明するかが違うだけとも言えます。
あん摩マッサージ指圧師は、鍼灸師と同じ「あはき法」に基づいた国家資格です。
だから、東洋医学を履修することができます。
「東洋医学」や「ツボ」といったキーワードが好きな方もいるので、
臨床トークの引き出しとして、私は経穴の知識を大事にしていきたいと思っています。
まとめ
今回のログでは、
- 巨骨という経穴の位置と成り立ち
- 実際に試した肩こりに対する反応
- 筋の起始停止部とゴルジ腱器官という生理学的視点
これらをつなげて考察してみました。
巨骨は、セルフメンテナンスでも手の届く位置にある経穴なので、活用したいですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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参考文献・参考資料
- TCM Wiki「LI16 (Jugu / 巨骨)」
- Standring, S. (ed.). Gray’s Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice.
- 医学書院『プロメテウス解剖学アトラス 運動器系』
- 医学書院『人体の正常構造と機能』
- Guyton & Hall Textbook of Medical Physiology
- ガイトン/ホール『医学生理学(Textbook of Medical Physiology)』Elsevier(エルゼビア・ジャパン)
- be-therapist.com
- スキマ時間のリハビリ学
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